熱力学 -熱力学第二法則-

2024年2月4日日曜日

熱力学

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結局、熱力学第二法則ってなんだ

熱力学第二法則を検索してみるとKelvinの原理やらClausiusの原理だかなんだか色々出てきて結局よくわからない。 結局、熱力学第二法則は何をいっているのだろうか。
筆者の理解では、熱力学第二法則で言いたいことは”熱は100%仕事に変換できない!”である。
ここで、熱力学第一法則はエネルギー保存則であった。 力学的エネルギーのみ考える時、摩擦を無視すると振り子は位置エネルギーと運動エネルギーを100%損失することなく変換することができる。 つまり、高い位置から運動を始めた振り子は、最も低い位置の時最高速度となり、再び最初と同じ高さで速度が0になる。 この運動においてエネルギーの総量は常に一定である。 そして、位置エネルギーと運動エネルギーの変換は 熱力学における熱力学第一法則は、力学における力学的エネルギー保存則に対応する。 しかし、熱が関係するとエネルギーの変換に条件が追加される。エネルギー保存則である熱力学第一法則から仕事は全てのエネルギーを熱に変換できる。 ところが、熱から仕事に変換しようとすると全てのエネルギーを自発的に変換できない。 ここで、熱力学第一法則からこの熱と仕事のエネルギーの総量は一定である。
熱力学第二法則は"熱は温度の高い方から低い方へ一方向に流れる"とも表現できる。 このように熱には方向性があるということが、熱と力学的エネルギーとの本質的な差である。 そして、これが熱力学第二法則である。 熱力学における熱力学第二法則に対応する法則は力学には存在しない。 この本質的な差について議論するために次にエントロピーという概念を導入する。

自発的に進行する過程 -エントロピーの導入-

熱は高温から低温に自発的に移動する。これを定量的に表現したい。 化学では、物質の安定性、二種類の液体が混ざり合うか混ざり合わないか、液体・固体・気体間の状態変化や 磁気的電気的な相転移がどのようにして起こるのか、などの様々な物理現象をモデル化して論じる。 変化が自発的に起きるかどうかを評価できるパラメーターがあれば、 これら物理現象のモデル計算を行う上での重要なファクターとなる。
では、どのような過程が自発的に進行するのだろうか。自発的に進行する過程はどんな共通項があるのだろうか。 自発的な過程のわかりやすい例として高温から低温へ熱が移動する過程を考えよう。 温度$T$[K]の系と$T_{ex}$[K]の外界を用意し、系が外界から受け取る熱を$q$[J]とする。 $T > T_{ex}$の時は外界に熱が流れ出るので$q < 0$、$T < T_{ex}$の時は系に熱が流れ込むので$q > 0$となる。 この時、いつでも成り立つ式を考えよう。例えば、以下の式はどうだろう。

\begin{equation} \frac{q}{T} > \frac{q}{T_{ex}} \end{equation}
Figure1. 系(温度$T$[K])と外界(温度$T_{ex}$[K])との熱$q$[J]のやりとり。

もう一つ条件をつけよう。 自然界で起きる変化は摩擦や抵抗などの非保存力の影響を受けて理想的な変化と比べて余分にエネルギーが必要となる。 自然界で実際に起きる過程を不可逆過程、理想的な過程を可逆過程という。 可逆過程では、系を外界と平衡状態にしたまま反応を進行させる。エネルギー損失は全く無いが実現不可能である。 このような平衡状態のまま進行させる過程を準静的な過程とよぶ。
さて、可逆過程でやりとりされる熱を$q_{rev}$、不可逆過程でやりとりされる熱を$q_{ire}$とすると、 最初と最後の状態が同じ反応でも可逆過程でやりとりする熱の方が大きくなる。

\begin{equation} q_{rev} > q_{ire} \end{equation}

可逆過程では仕事の損失が最小となるので熱力学第一法則より $q_{rev} = \Delta U - w_{rev} > \Delta U - w_{ire} = q_{ire}$となるからである。
式(1)と(2)とを組み合わせると。

\begin{equation} \frac{q_{rev}}{T} > \frac{q_{ire}}{T} > \frac{q_{ire}}{T_{ex}} \\ \frac{q_{rev}}{T} > \frac{q_{ire}}{T_{ex}} \end{equation}

ここで、$q_{rev}$がやりとりされる可逆的な過程は平衡状態が成り立つ準静的な過程であるので $T_{ex} = T$とおける。不等式中の$T$は系の温度を表しているが、左辺の$T$は可逆過程での 系の温度なので$T_{ex} = T$と条件がつく。
仕上げに温度が変化する過程も記述できるように積分記号でくくろう。 積分区間は任意の状態1から状態2とする。やりとりされる熱は不可逆過程の場合には経路に依存するので注意が必要だ。 それを表現するためにここではちょっと表現を工夫しておく。

\begin{equation} \int_{1}^{2} \frac{(d'q)_{rev}}{T} > \int_{1}^{2} \frac{(d'q)_{ire}}{T_{ex}} \end{equation}

ここまでで、自然界で起こりうる自発的な不可逆過程において成り立つ条件式ができた。 この式はどんな条件でのも成り立つかどうかはまだわからないが、とりあえず系がやりとりする熱量を 系の温度で割った値が重要そうだ。可逆過程でのこの値をエントロピーと定義しよう。 すると、エントロピーは次のようになる。またその微小変化分も以下に書き示す。

\begin{equation} \Delta S = \int_{1}^{2} \frac{(d'q)_{rev}}{T} \end{equation} \begin{equation} dS = \frac{(d'q)_{rev}}{T} \end{equation}

したがって、ある過程が自発的に進行する時の条件式は以下のようになる。

\begin{equation} \Delta S > \int_{1}^{2} \frac{(d'q)_{ire}}{T_{ex}} \end{equation}

エントロピーの増大

科学の話の中で"エントロピーは増大する"とよく言われる。 このエントロピー増大則も熱力学第二法則の一つの表現方法と言われている。 有名な話なので、ちょっと寄り道して、ここでそれを扱っておこう。
正確には何でもかんでもエントロピーは増大するわけではない。上の話には条件がついていて、 "断熱系のエントロピーは増大する"が正しい。この時$q_{ire} = 0$となるので、

\begin{equation} \Delta S > 0 \end{equation}

以上で証明となる。
断熱変化だと$q_{rev} = 0$となって$\Delta S = 0$なんじゃないのと思うかもしれない。 しかし、不可逆変化では断熱の過程でも、エントロピーは可逆過程でしか計算できないので、 不可逆過程のエントロピー変化を知りたければ、始状態から終状態を準静的な条件の成立した 別の過程を考え計算する必要があるのだ。

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