熱力学 -ギブスの自由エネルギー-

2024年2月5日月曜日

熱力学

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ギブスの自由エネルギー

一般的に自発的に反応が進行する条件は以下のように書き表す事ができる。

\begin{equation} d S > \frac{(d'q)_{ire}}{T_{ex}} \end{equation}

しかし、この式は計算するには扱いづらい。熱$q$[J]が式の中に残っているからだ。 条件をつけて、熱$q$が消えるように、ちょっと変形しよう。
地球上は大気圧という定圧条件ので我々が使いやすいように定圧条件と条件をつける。 この時、系が外界とやりとりする熱はエンタルピー$H$であるのであった。したがって上記の式は、

\begin{equation} d S > \frac{d H}{T_{ex}} \\ d H - T_{ex} d S < 0 \end{equation}

となる。さらに、温度平衡の状態だけを扱うこととして、$T_{ex} = T$と条件を追加する。

\begin{equation} d H - T d S < 0 \end{equation}

エンタルピー$H$も温度$T$もエントロピー$S$も状態量であるので、この式自体も状態量である。 さらに熱$q$も消えているので計算するにしても扱いやすい。これも状態量としてギブスの自由エネルギー$G$と定義しよう。 ギブスの自由エネルギーの定義式を以下に示す。

\begin{equation} G = H - T S \end{equation}

したがって、定温、定圧条件下で対象の過程が進行する条件は、以下の条件である。

\begin{equation} (d G)_{T,p} < 0 \end{equation}

ギブスの自由エネルギーの意味-最小値で平衡状態-

もう少し計算をして、ギブスの自由エネルギーの有用性を確認しよう。定温定圧条件下で 任意の状態1(温度$T$[K]、圧力$p$[Pa]、体積$V_1$[m$^3$])から状態2(温度$T$[K]、圧力$p$[Pa]、体積$V_2$[m$^3$])に 変化する時のギブスの自由エネルギーの変化は以下のようになる。

\begin{equation} G_2(T,p,V_2)-G_1(T,p,V_1) = \int_{1}^{2} (dG)_{T,p} \end{equation}

ここで、$(d G)_{T,p} < 0$なので、式の右辺は負の値となる。これを踏まえて式変形を続ける。

\begin{equation} G_2(T,p,V_2)-G_1(T,p,V_1) < 0 \\ G_2(T,p,V_2) < G_1(T,p,V_1) \end{equation}

この式より、定温定圧の自発的過程では、始状態のより終状態の方がギブスの自由エネルギーが小さくなる。 これは、ある過程が進行して状態2になった時、その状態2よりさらにギブスの自由エネルギーが低い状態3が あれば自発的に状態3になる過程が進行するという事だ。 つまり、我々が日常的に扱う大気圧の条件下において、ギブスの自由エネルギーがより小さい状態がより安定な状態となり、 ギブスの自由エネルギーが極小値をとる状態において物質は安定状態となる。 このとき極小値をとる状態を準安定状態、最小値をとる状態を最安定状態とよぶ。
ギブスの自由エネルギーが時に重要なのは定温定圧の自発過程を扱うからである。 自然界の反応は常温常圧の状態で行われ、これは気温と大気圧の定温定圧という条件とみなせる。 もちろん多くの化学反応で反応中は温度が変化するので反応中常に定温定圧の条件が成り立つことはほぼない。 しかし、ギブスの自由エネルギーは状態量であるので、始状態と終状態の温度と圧力が同じであれば途中の経路は問わない。 この始状態と終状態の温度と圧力が同じという条件は、大気圧下で気温と同じ温度から反応を開始し、反応を終えてから 大気圧下で気温と同じになるまで放置すれば良い。

ギブスの自由エネルギーの温度依存性

ここで、状態量の微小変化の扱いに慣れる練習も兼ねてギブスの自由エネルギーの温度依存性を調べよう。
熱力学第一法則$\Delta U = Q + w$の微量変化量は$dU = d'q + d'w$である。 ここに$d'w = -pdV$、$dS = (d'q)_{rev}/T$を代入すると、以下のようになる。

\begin{equation} dU = (d'q)_{rev} + d'w = TdS - pdV \end{equation}

これをエントロピー$H = U + TS$の微小変化に代入する。

\begin{equation} dH = dU + d(pV) = TdS - pdV + Vdp + pdV = TdS + Vdp \end{equation}

さらにこれをギブスの自由エネルギー$G = H - TS$の微小変化に代入する。

\begin{equation} dG = dH - d(TS) = TdS + Vdp - SdT - TdS = - SdT + Vdp \end{equation}

今、ギブスの自由エネルギーの温度依存性を知りたいのだから、ギブスの自由エネルギーを温度で微分する。

\begin{equation} \frac{\delta G}{\delta T} = - S + V \frac{\delta p}{\delta T} \end{equation}

これでギブスの自由エネルギーの温度依存性が求められた。さらに式を簡単にするために定圧条件を追加しよう。 定圧条件では$dp = 0$となるので、左辺の第二項は0となる。

\begin{equation} ( \frac{\delta G}{\delta T} )_p = - S \end{equation}

ここまでくると、定圧条件のエントロピーを求めてみたくなる。 ここで、温度T[K]でのエントロピーは定圧比熱$Cp$[J/K]を用いて次のように表す事ができる。

\begin{equation} (S(T))_p = S(0) + \int_{0}^{T} \frac{C_p}{T} dT \end{equation}

これを、定圧条件でのギブスの自由エネルギーの温度依存性の式に代入する。

\begin{equation} ( \frac{\delta G}{\delta T} )_p = - S(0) - \int_{0}^{T} \frac{C_p}{T} dT \end{equation}

したがって、定圧条件におけるギブスの自由エネルギーは温度上昇に従い常に減少する。

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