熱力学第一法則
熱力学第一法則は熱と力学的エネルギーの保存則である。
先に述べておくと熱力学第一法則は公理であり証明はない。様々な実験から経験則的に提出された法則である。
有名な実験の一つにJouleの実験がある。1847年にイギリスの物理学者ジュールが熱と仕事が等価であることを実験的に証明している。
さて、熱力学第一法則で述べれらていることは"内部エネルギーの変化$\Delta U$は外界とやりとりした仕事$w$と熱$Q$の和に等しい。"である。
式で表すと、
次に熱力学で用いる仕事について解説する。この説明にはピストン中の理想気体の体積変化が良く用いられるが、 ピストンでなくたって理想気体でなくたって良い。 ここでは、球形の物体が体積変化により物体の外部に仕事をする過程を考えよう(Figure1)。 $P$[N/m$^2$]の圧力下にある物体に$Q$[J]の熱を加えて、物体の体積を$V_1$から$V_2$に、 温度を$T_1$から$T_2$に変化させた時、物体が周囲にした仕事は以下のようになる。
\begin{equation} w = \int F(x)dx = \int (-p)Sdr = \int_{V_1}^{V_2} (-p)dV = -p(V_2 - V_1) = -p\Delta V \end{equation}まず、物体の表面積が$S$[m$^2$]であるので、物体が周囲に与える力は$F(x)=-pS$である。 ここでは、物体は周囲から押されているので、力の符号がマイナスになっているのに注意しよう。 また、体積変化が小さいので、球体の半径の変化分を$dr$として、$d V=V_2-V_1 \sim S dr$ と近似している。さて、$-pdV$の積分値が全体の仕事wであるのだから、仕事の微小量$d'w$は 次のようになる。
\begin{equation} d'w = -pdV \end{equation}エンタルピー
Figur1の過程での熱について考えよう。熱力学第一法則を熱に対して書くと$Q = \Delta U - w $であるので、 物体が吸収した熱$Q$[J]は、以下のようになる。
\begin{equation} Q = \Delta U + p \Delta V \end{equation}この熱$Q$[J]は定圧変化における熱収支である。化学においてよく扱う熱に反応熱があるが、 我々が日常的に扱う反応は大気圧という一定とみなせる圧力下で温度や体積などの状態が変化する定圧変化である。 よく使うので、定圧変化で出入りする熱をエンタルピーと名前をつけよう。 したがって特に条件指定がない場合は反応熱はエンタルピーと同じものとなる。 せっかくなので、定圧変化の場合以外も使いやすいように、エンタルピー$H$は以下のように定義し直す。
\begin{equation} H = U + pV \end{equation}こう定義すると、$U$と$p$と$V$が状態量なので、エンタルピーも状態量になって用いやすい。
熱力学第一法則と力学的エネルギー保存則
熱力学第一法則も力学的エネルギー保存則も両者ともエネルギーの保存則であるが、式だけ見ると全く違う法則に見える。
その違いはなんだろうか。名前の通り、熱力学第一法則は熱$Q$が含まれている保存則だが、熱が含まれるとなにが変わるのだろうか。
二つの法則の重要な違いは熱には方向性がある、という事である。熱は放っておくと温かいところから冷たいところに向かって流れる。
冷たいところから温かいところへ自発的に流れていくことはない。温度$T_1$[K]の位置$x_1$と温度$T_2$[K]の位置$x_2$の
間に流れる熱流束$J$[W/m$^2$]は次のフーリエの法則に従う。
ここで、比例定数$\lambda$は熱伝導率[W/mK]と呼ばれる。熱伝導率は正の値であるので、この直前についたマイナスが 熱が高温から低温に向かって流れることを示している。 この、自発的にエネルギーがどちらに向かって流れるか、は熱力学の最も重要な概念と言っていい。 これをより一般的かつ定量的に扱うために、熱力学第二法則でエントロピー$S$と言う概念が登場する。
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